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解雇の正当性を問う高知放送事件|企業と労働者が知るべき判例の教訓

  • 執筆者の写真: あいパートナーズ
    あいパートナーズ
  • 8月26日
  • 読了時間: 4分

高知放送事件は、1977年に最高裁で下された労働判例の中でも特に重要なものの一つです。この事件では、放送局のアナウンサーが放送事故を起こしたことを理由に解雇された事例を通じて、「解雇が社会通念上相当かどうか」をどう判断するかが大きな争点となりました。


本件は、労働者の権利を守る上で今なお参考とされる重要な教訓を私たちに与えてくれます。


高知放送事件

✅ 高知放送事件とは何か


高知放送事件は、1977年に最高裁で確定した、解雇の正当性をめぐる労働法上の重要判例です。事件の当事者は地方放送局に勤めていた男性アナウンサー。宿直勤務中に寝過ごし、早朝のラジオニュースの放送ができなかったという事実を理由に、会社側が彼を解雇したことが問題となりました。


この件では、アナウンサーが2回の寝過ごしによる放送事故を起こし、さらに事故報告書に不正確な記述があったことから、就業規則に基づく「その他やむを得ない事由による解雇」として普通解雇がなされました。


✅ 放送事故の経緯と会社の対応


第1回目の放送事故は1967年2月、アナウンサーが宿直勤務中に仮眠を取り、翌朝のニュース番組を開始時刻から10分間遅らせたことが原因でした。さらに、3月には2度目の同様の事故が発生し、今度はファックス担当者も同様に寝過ごしていました。この間、ニュースの放送が約5分間空白になり、会社にとっても信用を損なう出来事でした。


その後、アナウンサーは事故報告書を提出しましたが、その中には一部事実と異なる内容が記載されていたことが発覚。会社はこれを重く見て、普通解雇を決定しました。


✅ 解雇の妥当性を巡る裁判の争点


アナウンサーは自身の解雇が不当であるとして、従業員としての地位確認と賃金の支払いを求めて提訴しました。一審と控訴審では、アナウンサー側の主張が認められ、「解雇は無効」と判断されました。


そして、最終的に最高裁まで争われたこの事件で、最高裁も下級審の判断を支持。就業規則に定めがあるからといって、そのまま直ちに解雇が有効となるわけではなく、実際の事情を総合的に見て判断すべきであるという考えが示されました。


✅ 最高裁の判断とその意味


最高裁は、「就業規則に該当する行為があったとしても、個別の状況を総合的に見て、社会通念上相当と認められない場合には解雇は無効である」と明言しました。ここで重視されたのは以下のような点です。


  • 放送事故は確かに業務上の過失だが、悪意や故意はなかった

  • 同じく宿直していた別の職員も寝過ごしていたこと

  • 会社側の宿直体制にも問題があったこと

  • 報告書の不備は誤解や気後れによるもので、悪質とは言いがたいこと

  • 被解雇者の勤務成績は普段から真面目で問題がなかったこと

  • 過去に同様の事故で解雇された事例がなかったこと


これらの点を踏まえ、解雇は社会的に見て不相当であり、労働者にとって著しく過酷であると判断されました。


✅ 解雇権濫用法理の成立と意義


この事件を通じて、日本の労働法において「解雇権濫用法理」が明確化されました。この法理とは、たとえ就業規則に解雇の根拠があったとしても、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、かつ社会通念上相当と認められない場合には、その解雇は権利の濫用として無効とされるという考え方です。


これは民法の基本原則である「権利の濫用禁止」の考えにも通じており、現在では労働契約法第16条に明文化されています。


✅ 現代の労務管理への教訓


高知放送事件は、現代の企業にとっても多くの教訓を含んでいます。特に、人事や労務管理に関わる担当者にとっては、「規則に違反したから即解雇」という判断を避け、個別の事情を慎重に確認しなければならないという点が重要です。


また、組織としての勤務体制や事故後の対応策、被解雇者の勤務実績など、広範な視点から判断する姿勢が求められます。労働者側にとっても、自らの行為がどのように評価されるのか、報告や対応が信頼性を左右することを理解しておくことが必要です。


✅ まとめと今後の展望


  • 高知放送事件は、単なる就業規則の適用ではなく、個別事案の実情を踏まえた判断の重要性を示した判例である

  • 解雇には客観的な合理性と、社会通念上の相当性が必要不可欠

  • 本件は、労働契約法第16条の背景となる重要な法的根拠となっている

  • 今後も解雇を巡るトラブルを回避するためには、企業と労働者双方の丁寧な対応が求められる


このように、高知放送事件は単なる過去の労働事件ではなく、現代の働き方や人事制度にも深く関わる問題を提起しています。労働契約や解雇をめぐる議論の中で、今後も参照され続けるであろう重要な判例といえるでしょう。

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