会社が倒産し、労働者が退職した際に未払賃金がある場合、労災保険の「未払賃金立替払い制度」を利用できます。この制度では、独立行政法人「労働者健康安全機構」(以下「機構」)が事業主に代わり、退職者へ一部の未払い賃金を立替払いします。
主に中小企業の労働者を支援する制度として、「賃金の支払いの確保等に関する法律」に基づき運営されています。
✅ 未払賃金立替払い制度の対象者の条件
未払賃金立替払い制度の対象になるには、以下の条件を満たす必要があります。
事業主の条件
労災保険が適用される事業所で、1年以上事業活動を行っている企業であること(法人・個人問わず)。
労働者の条件
倒産により退職し、未払い賃金があること。なお、家内労働者(内職者)や会社役員(代表権を持つ者)および同居親族は対象外です。
退職のタイミング
法律上の倒産(破産手続きの申立など)では申立日から、事実上の倒産(中小企業に限定)では労働基準監督署長への倒産認定申請日から、6ヶ月前の日から2年以内に退職した労働者が対象となります。また、退職から6ヶ月以内に倒産手続きが行われていることが必要です。
✅立替払い制度の支給対象の賃金と支給額
立替払いの対象となる賃金やその金額は以下のように定められています。
対象となる賃金
退職日の6ヶ月前から倒産認定日前日までの給与および退職金(労働協約、就業規則、退職金規程などに基づくもの)が対象です。ただし、未払賃金の総額が2万円未満の場合や賞与(ボーナス)は支給対象外です。
支給金額
未払い賃金総額の80%が支給されますが、年齢によって限度額が設定されています。具体的には以下の通りです。
・45歳以上: 支給上限額は296万円(未払賃金限度額は370万円)
・30歳以上45歳未満: 支給上限額は176万円(未払賃金限度額は220万円)
・30歳未満: 支給上限額は88万円(未払賃金限度額は110万円)
✅ 立替払い制度の申請方法
申請手続きは倒産の種類(法律上または事実上)によって異なります。
法律上の倒産
破産管財人や裁判所に必要事項を証明するよう申請し、証明書を発行してもらいます。その後、必要事項を記入して機構へ書類を提出します。
事実上の倒産(中小企業のみ適用)
労働基準監督署長に「認定申請書」を提出し、倒産の認定を受けます。その後、発行された「確認通知書」を機構へ提出します。
申請が承認され、支給が決定すると、指定の普通預金口座に立替払いが振り込まれます。
✅ 立替払い後の事業主への請求
機構が立替払いを行った場合、その賃金債権は機構に代位され、機構は事業主に対して未払賃金の返済を求めることができます。事業主は、この立替払いによって賃金支払い義務を免除されるわけではなく、未払い賃金に対する責任を引き続き負います。
以上が、未払賃金立替払い制度の詳細です。この制度により、倒産などで賃金を受け取れなかった労働者も、一定範囲の賃金を確保できるようになっています。未払賃金でお悩みの方は、ぜひ弊所にご相談ください。
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