就業規則による労働条件の不利益変更については、秋北バス事件の判決で「新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない(秋北バス事件)」と一定の基準が記されています。
つまり、就業規則の不利益変更は原則として許されないが、合理的な理由が認められれば、不利益変更であっても就業規則は有効であると判断しています。
とくに賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成または変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受認させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきであるとされています(大曲市農協事件)。
就業規則の不利益変更

合理性の判断基準
就業規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成または変更が、その必要性および内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいいます(第四銀行事件)。
合理性の判断基準は以下の7つの要件で総合判断されます。
・就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
・使用者側の変更の必要性の内容・程度
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
・労働組合等との交渉の経緯
・他の労働組合または他の従業員の対応
・同種事項に関するわが国社会における一般的状況等
合理性の判断基準は以下の7つの要件で総合判断されます。
・就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
・使用者側の変更の必要性の内容・程度
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
・労働組合等との交渉の経緯
・他の労働組合または他の従業員の対応
・同種事項に関するわが国社会における一般的状況等
就業規則の不利益変更と労働契約法
就業規則の不利益変更が合理的な理由があるかどうかは、判例では7つの判断基準により判断されました(第四銀行事件)。しかし、この判例法理を明文化した労働契約法においては、以下の4つに減らされました。
(1) 労働者の受ける不利益の程度
(2) 労働条件の変更の必要性
(3) 変更後の就業規則の内容の相当性
(4) 労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
(1) 労働者の受ける不利益の程度
(2) 労働条件の変更の必要性
(3) 変更後の就業規則の内容の相当性
(4) 労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
就業規則の不利益変更に関する判例
●秋北バス事件(昭和43年 最高裁大法廷判決) 新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないとした。 ●タケダシステム事件(昭和58年 最高裁第二小法廷判決) 就業規則の変更が合理性を判断するに当たっては、変更の内容及び必要性の両面からの考察が要求されるとした。 ●大曲市農業協同組合事件(昭和63年 最高裁第三小法廷判決) 就業規則の定めが合理的なものであるとは、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なおその労使関係における就業規則の定めの法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものをいうとした。 特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、その定めが、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるとした。 ●第一小型ハイヤー事件(平成4年 最高裁第二小法廷判決) 就業規則による賃金の計算方法の変更につき、新計算方法に基づき支給された賃金が全体として従前より減少しているならば、合理性は容易に認めがたいが、減少していないならば、従業員の利益をも適正に反映しているものである限り、その合理性を肯認することができるとした。 ●第四銀行事件(平成9年 最高裁第二小法廷判決) 就業規則の変更の合理性の有無は、具体的には、労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきであるとした。 ●みちのく銀行事件(平成12年 最高裁第一小法廷判決) 就業規則の変更により一方的に不利益を受ける労働者については、不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないとした。 |